2007年05月09日


5月9日(水)
パート労働法改正案で代表質問

 政府案は差別拡大法案。 均等待遇を実現しよう!

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 参議院本会議で代表質問を行い、パート労働法改正案について安倍総理に質問をしました。
 この法案はパート労働者に対する差別を禁止する法案という触れ込みでしたが、実際に差別禁止の対象になるのは、1200万人もいるパート労働者のうち、政府の試算でも4?5%と、ほんのわずかです。3つの厳しい条件にあった労働者しか対象にしないためで、実際にはもっと少ない、あるいはほとんどいないのではないかと言われています。それどころか、この法案が通ると、条件に合わない労働者への差別が正当化されてしまう心配さえあるのです。場合によっては、正社員でさえ、条件に合わないことを理由にパートに転換させられてしまうかも知れません。
 質問では、衆議院に提出した民主党の独自案を念頭に、均等待遇、長時間労働の是正、正社員の労働条件確保、中小企業への支援の充実、少なくともフルタイムで働けばちゃんと生活できる最低賃金の引き上げを訴えました。
 党として、残る参議院での議論で少しでも成果を得るためにがんばりますが、自民党と公明党が多数を占める国会では、残念ながら法案成立を阻むことは難しいです。なんとしても政権交代を実現しなければと、さらに気合いが入りました。

 質問の全文を掲載しますので、どうぞご覧ください。
 参議院のホームページで、質問の模様を動画で見ていただくこともできます。
 動画をご覧いただく場合は、参議院インターネット審議中継の「ビデオライブラリー」のページから、5月10日の本会議をお選びください。(http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/library/consider.php

5月9日(水) 

アムネスティ議連主催の国際人権セミナー。フィリピンで多数の政治家や活動家などが殺され、国軍の関与が疑われている「政治的殺害」が議題。この問題については、私もNGOの皆さんやフィリピンの国会議員の方からお話しを伺い、政府にフィリピン政府への働きかけなどを求めてきました。
今日のセミナーでは、アムネスティ・インターナショナル日本やNGOの皆さんらとともに国連特別報告者のフィリッピ・アルストン教授のお話を伺い、意見交換をしました。
2月にフィリピンを訪れたアルストン教授は、この問題に国軍が関与していることを示唆、大統領が国軍に依存していて有効な手段を取りにくい状況にあることなどを説明し、国際社会による働きかけが重要であるとして、日本政府の取り組み強化に向けて国会の役割に期待すると述べられました。
民主主義を脅かし、多くの人命を奪っているこの問題、日本の資金が使われている公共事業に反対していた住民グループのリーダーが殺害されていることもあり、日本としても重大な関心を持ち、フィリピン政府に適切な対応を求めなければなりません。

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短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律案
本会議代表質問
平成19年5月9日
民主党・新緑風会 岡崎トミ子

 私は、民主党・新緑風会を代表して、ただいま議題となりました、内閣提出の「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律案」について質問いたします。

「生きさせろ。」「過労死から逃げろ。」今年のメーデーではついに、生存を訴えるデモが行われました。フリーターや日雇いの派遣労働者、障がいを持つ方々、路上生活者、生活保護受給者など、呼びかけ人の予想を大きく上回る若者らが参加したと報じられました。
 雇用の世界が、ますます不安定な方向に、そして、ますます格差を拡大する方向に変わっています。もっとも顕著なのは、パート労働者や派遣労働者など、いわゆる非正規労働の増加です。その数は、この10年間で500万人増えて1600万人。今や、働く人の三人に一人が非正規雇用者です。
 これは、労働者を保護する適切な措置を欠いたまま行われた労働の規制緩和のもと、企業が厳しい競争環境のなかで労働コストを削減するために正規労働者を減らし、非正規労働者を増やしてきた結果です。
 この10年間で正社員は1割減り、非正社員は6割増えているのです。正規労働から非正規労働に転換した多くの方々にとって、この転換が、自らの選択によるものとは言えないことを忘れてはいけません。
 そして、もともと低く抑えられていた非正社員の給与はさらに下がり続け、正社員との格差はますます広がっています。これが「いざなぎ超え」の景気回復と言われる今日、労働の現場で起こっている格差拡大の実態なのです。
 この格差は、一方でワーキングプアを生み出し、他方で過労死をもたらす長時間労働を生み出しながら、貧困化とともに進行しています。失業率がわずかばかり改善したからと言って、まったく喜んでなど、いられません。
 格差拡大の中、非正規労働で生計を立てようとがんばっている皆さんがどういう生活をされているか、私は野党議員の仲間たちと聞き続けてきました。その実態を伺うにつけ、93年、私自身も関わったパート労働法制定時に、差別禁止を義務化せず、事業主に対して、雇用管理の改善を図るために必要な措置を講ずる努力義務を課すものに止めてしまったこと、その後も、差別禁止ができなかったことに忸怩たる思いを禁じられません。
 非正規労働者に対する保護を欠いたまま行われた労働の規制緩和が格差拡大に寄与してきたことを、政府はどのように総括しているのでしょうか。総理の答弁を求めます。

【格差の是正、最低賃金法の改正】
 先に触れた正規雇用と非正規雇用の所得格差の拡大は、個人の努力だけでは克服できません。とくに、現行の最低賃金は生活保護の水準を下回る場合もあり、たとえば、フルタイムで朝の9時から夕方6時まで、月曜日から金曜日まで毎日働いても、月収は10万円から12万円、労働者全体の平均給与の3割程度にしかなりません。これでは、国民年金の保険料を払うのも困難です。事実、無年金の危険を抱える非正規雇用者が約230万人もいるという推定もあります。国民生活に大きな不安を投げかけている国民年金の空洞化は、こうした給与の格差拡大と無縁ではありません。
 私たち民主党は、格差是正のために、通常の労働者とパート労働者の均等待遇、長時間労働の是正、中小企業への支援の充実を図るとともに、最低賃金を、少なくとも、
フルタイムで働けば十分に生活できるレベルまで引き上げる必要があると考えます。
 この点について、政府提出の最低賃金法改正案では、地域別最低賃金の「労働者の生計費を考慮するにあたっては、生活保護に係る施策との整合性に配慮するもの」となって
いますが、生活保護に係る施策とは何を指し、最低賃金はそれをどの程度超える額に設定し、その結果として、いくつの都道府県で何円程度最低賃金が上がるのか、総理大臣に明確な答弁を求めます。

【差別的取扱い禁止の対象は何人か】
 今回の改正の目玉は、パート労働者に対する差別的取り扱いの禁止にあるはずです。
 1200万人にのぼるパート労働者の中には正社員と同じ仕事をしている人も多くいますが、「パート社員」であるというだけで、労働条件に大きな格差があります。給与はもちろん、正社員に支給されるボーナスや家族手当等がパートには支払われなかったり、教育訓練の機会が乏しかったりと、処遇において不合理な差別的取扱いを受けています。さらには食堂や更衣室の利用にも差別が設けられている場合もあります。
 こうした現状に対して民主党は、すべてのパート労働者を差別的取扱い禁止の対象とし、均等待遇を実現すべきことを明確に打ち出しています。均等待遇は今や世界の常識であり、その実現は、1993年に初めてパート労働法をつくったときから積み残されてきた課題だったはずです。
 ところが、政府案は差別的取扱いの対象を、3つの要件を満たす「正社員と同視すべき短時間労働者」に限定してしまいました。正社員と職務の内容が同じで、転勤や配置転換等の人事管理条件が同じ、そして期間の定めのない労働契約を締結している労働者しか、差別禁止の対象としていないのです。
 このようなパート労働者が、本当にいるのでしょうか。いたとして、一体、どれくらいいるのでしょうか。衆議院の質疑では、差別禁止の対象となるパート労働者がどの程度いるのか、本当に存在するのか、ついに明確な答弁はありませんでした。
 改めて、正社員と同視すべきパートがどの程度いるのか、総理に伺います。

【差別を正当化するおそれ】
 3要件に当てはまるパート労働者が本当にいたとして、では、当てはまらない労働者はどうなるのでしょうか。
 圧倒的多数を占めると思われるこの方たちについて、政府案のように均衡処遇の努力義務しかなければ、正社員と少しでも仕事が違ったり、期間の定めのある労働契約を締結したり、あるいは、配置転換や転勤を予定しなければ、使用者は、均衡処遇のために努力をしたと言いさえすれば、差別を放置しても許されることになりかねません。
 このパート労働法の改正は、「再チャレンジ支援策」の柱とも言われますが、「格差拡大は仕方ない。その上で、ほんの一握りを救えばいいという」のでは、とうてい柱とは、なりえません。安倍政権の「再チャレンジ支援」の本質が見えたようなものです。
 もともと、パート労働の問題は、女性の貧困の問題という側面を強く持ってきました。1人で生計を支えようとしながら、子育てなどの事情や様々な就職差別によって正社員と同じようには働けない女性が大勢います。夫婦がともに働いている家庭でも、女性が育児や介護、家事について主要な役割を担っていることが一般的な現状です。こうした事情で、例えば転勤ができなければ、差別禁止の対象外になってしまうのです。多くの女性たちが、この法案は、差別拡大法案だと怒っています。
 このような、この法案が、かえってパート労働者の格差を正当化し、拡大する恐れがあるという批判、女性のパート労働の実態に応えていないという批判を、総理はどのように認識しているのでしょうか。
 また具体的に、パート労働者の労働条件の変更について、使用者が一方的に不利な変更を行うことをどのように防ぐのか、総理に答弁を求めます。

【正社員への転換】
 さて、非正規労働者の増加が、働き方の選択肢が増えた結果だというならば、正社員への転換も、当然、選択肢として用意されなくてはなりません。それでなくても、チャレンジ支援という観点からはもっとも重視されるべき課題のひとつです。政府案では正社員への転換を推進するために、正社員募集のパート労働者への周知、配置転換を希望する申出の機会の付与、正社員への転換試験制度の創設の、どれかを実施することとしています。
なぜ、「どれか」、なのでしょうか。そのうちのどれかを実施するだけで、どの程度正社員への転換が増えるのでしょうか。総理に伺います。
 民主党が主張するように、正社員募集の際には、現に雇用している同種の業務に従事するパート労働者で正社員への転換を希望する人に応募の機会を優先的に与えるとともに、他の応募者の就業の機会の確保についても配慮しつつ、できる限り優先的に雇い入れる努力義務を設けるべきであると考えますが、総理大臣の見解を伺います。

【パート労働者の厚生年金適用拡大】
 次に、パート労働者の厚生年金適用拡大について伺います。政府は、パート労働者への年金適用も含む厚生年金法の改正案を提出しました。パート支援を「再チャレンジ」の目玉に掲げる総理官邸が、時間をかけて準備をしようとした厚生労働省を押し切ったとも言われています。
 では、よほどの内容かと言えば、新たに年金適用になるのは、わずか10数万人だと言われます。現在、適用になっていない約900万人のうちの、わずか10数万人です。あれだけ賛否が議論された厚労省の案でさえ、労働時間が週20時間以上のパート労働者、約310万人を新たに対象としていました。これは中身より、とにかく提出することを最優先した結果ではありませんか。残業代等を除く月給が9万8千以上、勤務年数1年以上、従業員300人以下の中小企業は除くなどの条件を満たすのは、時給が高い専門職のパートだけではありませんか。
 適用拡大を当初案より大幅に限定したのは何故か、また、将来的には、パート労働者の適用を広げていくのか、総理大臣の見解を伺います。

【正社員の労働条件確保】
 民主党は均等待遇を求めていますが、それは、正社員の待遇の引き下げによって実現されるのであってはなりません。衆議院で与党の議員が民主党案を「正社員保護法案」だと批判しましたが、正社員の労働条件の水準を確保しつつ、パートの労働条件を引き上げて均衡を図ることのどこが間違っているのでしょうか。それとも総理をはじめとして与党は、均衡に向けて、正社員の引き下げることもやむを得ないと考えているのでしょうか。
 政府案には例えば、転居を伴う転勤や残業に応じられない正社員をパートに転換してしまうことを防ぐような規定はあるのでしょうか。転換された、あるいは転換されようとしている労働者が調停等を申し立てる権利は確保されているのでしょうか。総理の答弁を求めます。

【職務給制度の構築を目指した均等待遇のあり方は検討しないのか】
 衆議院で与党議員はまた、民主党案が「非現実的だ」と批判しました。しかし、現状を変えて求められる姿に変えるのが、政治の役割のはずです。たとえば、わが国では職務給が確立していないために同一価値労働同一賃金原則の条件が満たされないと言うのであれば、だから何もしないというのではなくて、わが国の短時間労働者と通常の労働者との均等な待遇の事例を積み上げ、労使代表による検討を重ね、社会的なコンセンサスを得ていけばよいではありませんか。
 職務給制度の構築を目指した均等待遇のあり方を検討する仕組みをつくっていく考えはないのか、総理大臣に答弁を求めます。

【安倍政権がめざす雇用社会】
 最後に、安倍政権が、どのような雇用社会を目指しているのか、お尋ねします。
 この間総理は、真に向き合うべき、格差や雇用と言った諸課題をおろそかにして、「美しい国づくり」や「戦後レジームからの脱却」のスローガンのもと、国の関与を強めるだけの教育基本法改正、幅広い国民合意を放棄して憲法改正に道をつける国民投票法の制定、理念が無くて財政負担だけは確実な米軍再編支援など、国民からかけ離れた、独善的な実績づくりに、しゃにむに進んできました。こんなことでは、現実は、いよいよ取り返しのつかないところまで進んでしまいます。
 終身雇用、年功序列、内部労働市場での雇用調整、企業による職業訓練といった日本型雇用モデルが崩れており、格差問題への取り組みの中で、新たな雇用モデルの構築が求められています。
 新しい働き方のルールをつくるにあたっては、たとえば育児や介護、就学、社会的活動等との調和を尊重すること、つまりワークライフバランスの実現が重要です。そのことによってこそ労働も充実するという発想が大切だと考えます。だからこそ民主党は、どのような雇用形態であっても、働き方に応じて公正に報いられる社会、しっかり働きさえすれば、安心感を持って将来設計ができる社会をめざしているのです。
 これに対し、安倍政権では、どのような雇用社会を目指しているのか、政府の雇用政策でワークライフバランスが実現できるようになるのか、総理に説明を求めます。

 今回の14年ぶりのパート労働法改正案。貧困状況の中で必死のがんばりを強いられてきた女性たちをはじめとしたパートの皆さんへの差別を禁止して応援するのかと思ったら、対象を極めて限定し、しかも、対象にならなかった労働者との格差を、かえって広げてしまう。それどころか、正社員の労働条件をも引き下げる危険を持ったこの政府案に対して、極めて強い懸念を持っています。働いて生活できる、働いて自立できる、働いて将来の希望が持てる雇用社会に向け、すべてのパート労働者への均等待遇を実現しようではありませんか。与党議員の皆さんにも、何が大切なのかという原点に立ち戻った真摯な議論をお願いし、質問を終わります。

以上